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性感染症の恐ろしい末路「フィッツ・ヒュー・カーティス症候群」

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病気は、知っていないと疑えない

フィッツ・ヒュー・カーティス症候群、という疾患を聞いたことがあるでしょうか。

 

フィッツ・ヒュー・カーティス症候群Fitz-Hugh-Curtis Syndrome、肝周囲炎)は、主にクラミジア感染症による合併症の一つで、"20~30代 女性の持続する右季肋部痛"では、必ず鑑別に挙げるべき病気です。

 

医学生の講義では産婦人科の教授が二言三言を語る程度で、実臨床でもほとんど遭遇することはない病気です。

 

しかし、性器クラミジアは近年増加の傾向にある性感染症であり「知っていないと疑えない」初期症状であることから、押さえておく必要があります

国立感染症研究所『若年者で増加してきている性器クラミジア感染症』

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クラミジア感染は基本無症状だが、フィッツ・ヒュー・カーティス症候群は腹痛を生じる

性器クラミジアは、基本的に性交渉によって感染が成立します。

 

男性では尿道(排尿時の痛み)、女性ではおりものの増加などがみられますが、半数以上は無症状と言われており、感染が蔓延する原因となっています。

 

フィッツ・ヒュー・カーティス症候群女性特有の合併症で、膣→子宮→卵管→腹腔内→肝周囲の腹膜へ感染・炎症が広がることで、強い腹痛を生じます。そのため、この症候群は肝周囲炎とも呼ばれます

 

しかし、腹痛自体が非特異的な症状で、よく分からないまま便秘、胃腸炎と診断されるのはザラです。

直接命を奪うことはないものの、病院に受診してもなかなか原因がわからない。

そのうち医者から「あの若いコ、psychogenicな症状※だからなぁ」と影でひどい言われ方をされる。

不妊の原因にもなるので、色々な意味で恐ろしい疾患です。

※”psychogenic(さいこじぇにっく)な症状”・・・うつ傾向や不安神経症の患者にみられる"だるい"、"胸がしんどい"などの不定愁訴を総称したローカルワード。しかし、医師が臨床能力の無さを棚に上げて患者の症状に"心因性"の烙印を押す時にも使われる、無責任なワード。

以前、『総合診療医 ドクターG』の「肩が痛い」という主訴の回で、最終的にこの診断が導き出されました。まさかの肝臓より上の横隔膜、脊髄まで炎症が波及するという流れ。

クラミジア上行性感染を起こすという病態を知っていても、初診の肩痛だけではさすがに疑いませんが・・・面白い回でした)

tvtopic.goo.ne.jp

比較的高齢の女性が右季肋部痛~心窩部痛で受診した場合、その近くの臓器である胆嚢、胆管、膵臓、腸管、心臓、血管などの異常を鑑別に挙げますが、若い人であれば性感染症も上位に位置づけて、病歴を聞いていく必要がありそうです。

 

とはいえコミュ障の私は、若い綺麗な女性に性交渉や妊娠の有無を聴取するのが、未だに下手くそです(私と同じ人は、看護師さんに事前に聴取してもらい、補足しながら聞いていきましょう)。

 

フィッツ・ヒュー・カーティス症候群の治療

治療はマクロライド、またはニューキノロンの抗生剤を1~2週間使用します。1週間後に再診し、症状の経過をみましょう

通常のクラミジア感染なら、もっと短期での治療で再診も要らないと思いますが、炎症が広がっているため若干長めに処方します。

処方例:
クラビット(500mg) 1錠 1日1回 朝食後 7日間
ジスロマック(250mg) 2錠 1日1回 朝食後 3日間