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血管を評価する生理検査を解説【ABI・PWV】

目に見えない血管を評価する

 心血管疾患の主病因である動脈硬化には、プラークと血管機能不全の2つのアプローチがある。

 

 血管機能不全を評価する血管機能検査には、血管内皮機能検査、脈波伝播速度(PWV)、心臓足首血管指数(CAVI)、中心血圧、増大係数(AI)、足関節上腕血圧比(ABI)などがあり、普及はしているが、測定方法、結果の解釈、臨床的意義、臨床応用などについて、一定の見解が示されていない。

 

 血管機能検査法が心血管疾患の管理におけるバイオマーカーになるには、①血管機能不全の進展程度がわかる、②心血管疾患の発病リスクないし予後の推定ができる、③介入による効果が評価できる、④結果が改善すれば予後の改善につながる、などの評価ができる必要がある。

 

 また、こういった検査法が広く臨床応用されるためには、①非侵襲的で簡便に計測でき、②低コストで普遍化が可能であり、③精度および再現性が高、④計測法が標準化されている、といった「安全・安価・正確」な検査法である必要がある。

 

 そこで、当院で行われているPWVABIの検査の解釈と、実臨床への使い方を血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン2013”を参照して解説する。

 

① PWV

 心臓からの血液駆出により生じる動脈の脈動が末梢へと伝播する(=脈波が伝わる速度PWV(pulse wave velocity:脈波伝播速度)である。PWVは、脈動を2か所で検出した脈波の立ち上がり時間差と測定部位間距離から算出される指標であり、動脈スティフネスを反映すると考えられている。

 

 当院ではbaPWV(branchial-ankle PWV)を採用している。baPWVでは上腕および足首で記録した動脈波の立ち上がりの時間差(Tba)を脈波伝播時間とし、「中心から足首までの動脈長」から「中心から上腕までの動脈長」を引いた長さをbaPWV用の動脈長とみなしている。その値は被測定者の身長から推定される。

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 PWVは動脈壁の厚さに比例し、動脈内径および血液粘度に反比例する。血液粘度は影響が大きくなく、PWVの大小は動脈壁の硬さ、厚さによるところが大きい。

 

※影響を受ける因子:加齢、心拍数(高心拍者ほどPWV↑)、交感神経系、液性因子(アンジオテンシンⅡ、カテコラミン)、血管内皮細胞由来の血管拡張物質(NO、プロスタグランジン)

 

※正確な評価がしにくい疾患:心房細動、脊柱管・腹部大動脈の湾曲(大動脈長の過小評価→PWV↓)、腸骨動脈狭窄、PAD(末梢動脈疾患)

 

 

【PWV測定を考慮する症例】

 高血圧糖尿病透析症例およびステージ3~5のCKD、左室収縮能低下を合併しない冠動脈疾患症例ではPWV測定が有用である可能性が高い。baPWVは症状やその他の検査にて冠動脈造影検査実施が決定している症例についても冠動脈疾患の存在や、病変重症度の推測に有用である可能性がある。

 しかし、PAD(peripheral arterial disease:末梢動脈疾患)症例では脈波波形解析精度の問題からbaPWVの測定は推奨できない。

 

【基準値】

 基準値の目安として1800cm/secが妥当

 高齢者では特に障害がなくても高値になる。

 

【評価】

 閉塞性病変より末梢側では波形が平坦化し、基線から上の波形面積平均値を脈波振幅で除した%MAP([%mean artery pressure];正常値 45%未満)は高値になる。また、脈波の立ち上がりからピークに達するまでの時間(upstroke time:UT、正常値:180msec未満)が延長する。

UTは大動脈弁狭窄症、心拍数などの影響を受ける。

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【疾患、病態との関連】

・baPWVを上昇させる心血管疾患危険因子として、加齢、高血圧、糖尿病、脈拍数が報告されている。高血圧や糖尿病では、臓器障害の程度とも良好な関連を示す。また、冠動脈狭窄合併の有無とbaPWVが関連する。

その他の関連

・性差(閉経前の女性↓)、メタボリック症候群↑、慢性腎臓病↑、睡眠時無呼吸症候群↑、SASに対する持続陽圧呼吸療法↓、

コレステロール中性脂肪の上昇との関連は認められない。しかし、スタチン系薬剤がbaPWVを低下させる報告あり。

 

【疾患のリスク予測】

・baPWVの上昇は、高血圧の発症や腎機能障害進展の予測因子となる。血圧140/90mmHg 未満の症例が3年間に高血圧に進展する予測cut-off値としてbaPWV=1400cm/secとしている。

・また、baPWVはフラミンガムリスクスコアに相関し、baPWV 1400cm/secは、フラミンガムリスクスコアの中等度リスク(10年間の冠動脈疾患発症が9%)に相当するとの報告がある。

 

※フラミンガムリスクスコア=10年間の冠動脈疾患発症による死亡のリスク予測。米国で提唱されたスコアのため、日本人には過大評価となることがある。

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・baPWVが20%上昇すると、脳心血管疾患の相対リスクは1.3倍になる。

 

ギリシャのメタ解析ではbaPWVが100cm/sec上昇するごとに、心血管疾患の発症が12%増加する。

 

・一方、糖尿病や透析患者に対しては有効な予後予測能がない(正確な評価ができないことがあるため)

 

【治療方針】

・降圧薬治療に伴いcfPWV(carotid-femoral PWV)が改善する報告が多い。特にレニン・アンジオテンシン系阻害薬Ca拮抗薬血管拡張性β遮断薬の効果が大きいとされる。

 

・baPWVは、減量禁煙降圧薬スタチン系薬剤経口糖尿病薬閉塞性睡眠時無呼吸では持続陽圧呼吸療法で改善することが報告されている。

・しかし、治療介入によるbaPWVの低下と、予後が相関することを示したデータは少ない

・161人の冠動脈疾患患者を追跡調査したところ、治療介入でbaPWVが低下しなかった群は、低下した群に比べて心血管疾患の発症と死亡リスクが約4倍高かった

・高血圧の既往がなくても、baPWVが 1,400cm/secを超える症例に関しては、減塩などの生活指導が望まれる。

 

【フォローアップ】

一般住民では年次健診に合わせて年1回のフォローアップを推奨する意見があるが、適切な測定間隔を推奨する根拠はない。

 

ABI,TBI

 ABIはankle brachial indexの略語として用いられ、上腕動脈の血圧に対する足関節レベルの血圧の割合を意味する。主に末梢動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD)の診断目的に使用される。

 

 末梢からの圧脈波の反射により足関節レベルの収縮期血圧は上腕動脈の収縮期血圧より10~15mmHg高い値を示すため、健常人のABIは1.00を超える。

 ABIは、足関節より中枢の主幹動脈の狭窄または閉塞性病変の存在と側副血行路による代償の程度を示しており、ABIが0.90以下の場合、下肢動脈に50%以上の有意な狭窄を示す感度は90%で特異度は95%とされる。特にPADが疑われる症例においては、ABIの感度80~95%特異度95~100%とされ、ABIに基づく下肢PAD診断精度は確立されている。

 

 一方、下肢虚血症状が高度であるにも関わらずABIが1.40以上の高値を示す症例もみられる。糖尿病や透析患者は下肢動脈の石灰化が非常に高度なため、カフで圧迫しきれない場合があり、300mmHg以上の血圧として測定されることがある。その場合はTBI(toe brachial index:足趾上腕血圧比)を用いて評価する。足趾動脈は抵抗がより強いため、TBIは0.7以上が正常値となる。

 

【再現性】

 ABIの計測のみで臨床的に有意な差とするには0.15以上の変動が必要。ABI以外のパラメータと合わせて臨床的に有意とする場合には0.10以上の変動が必要とされる。

 

【評価】

ABI0.9以下:血流障害、狭窄(PADの診断

・ABI1.4以上:動脈壁の石灰化を疑う(TBI、速度波形、SPPなどの評価)

・0.91~1.00:境界域

・1.01~1.40:正常

+間欠性跛行:運動負荷ABI測定

 

【疾患、病態との関連】

・喫煙者の跛行症例を禁煙群と喫煙継続群に分けたところ、ABIは禁煙群で0.11上昇し、喫煙継続群では0.04低下した。

 

・高血圧以外の合併症をもたない群では、ABI0.9以下は7.3%、ボーダーラインの0.91~1.00は23.7%に認められた。

 

【ABI測定を考慮する症例】

 ACCF/AHAガイドライン2011では、ABI測定の対象は間欠性跛行などの労作時の下肢症状のある症例、下肢の難治性潰瘍症例、65歳以上の高齢者50歳以上の糖尿病症例もしくは喫煙者としている。

 

 当ガイドラインでは、心血管疾患の既往を有する症例、間欠性跛行などの労作時の下肢症状のある症例、下肢の難治性潰瘍症例、65歳以上の高齢者、脳心血管リスク層別化で高リスクの高血圧症例、冠動脈疾患症例、50歳以上の糖尿病症例もしくは喫煙者においてABI測定が推奨される。

また、透析症例およびCKDステージ3~5の症例においてもABI測定が推奨される。

 

 異常値を示す場合は半年に1回のフォローを推奨する。

 

 ABI1.40以上の症例については、そのほとんどが糖尿病もしくは維持透析症例で、下腿動脈の高度石灰化を伴う症例。そのためTBIなどそれ以外の指標を参考にする必要がある。

ABIの有意な低下は、前述のように0.15以上の低下を意味し、血行動態的には50%狭窄の発生を意味する

 

 

(PADについて補足)

【リスク因子】喫煙高血圧コレステロール血症2型糖尿病

※1つ増えるごとに、相対リスク2倍

 

【治療】まず危険因子を減らす。喫煙などの生活習慣を改善し、高脂血症や糖尿病、高血圧を正常化する治療を行う。運動療法により改善がみられない場合には、シロスタゾールなどの抗血小板薬による薬物療法や、中枢側の病変であれば血管内治療を含めた外科的な血行再建も考える。

 

 PADの臨床症状の約70~80%は間歇性跛行であるため、PADの治療は間歇性跛行の治療となる。

 

 PADによる間歇性跛行の治療には運動療法が有用である。TASCⅡにおいてもまず運動療法を行うことが推奨されている。監視下において、トレッドミルかトラック歩行を使用し、30~60分を1クールとして歩行と休憩を繰り返す。これを1週3回で3ヵ月行うことが望ましい

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