メディ×ライフ

今日を有意義に生きるための一記事を

酒が百薬の長は嘘?反証の海外論文を読んでみた感想は・・・

f:id:toshiblo:20200427125022j:plain

あなたは家にいる時間が長くなって、つい酒の量が増えていませんか?
 
酒は百薬の長」とは漢書に語源があることわざで
「適量の酒は、どんな薬よりも効果がある」という意味です。
実際に、それを立証する研究も行われています。
 
ある日、医療系のクイズでこんな問題が出ました
 
 アルコールについて次の記述の正誤を答えよ
 
[少量のアルコールは健康によい]
 
答えは・・・
 
「×」です。
 
 
はて?
 
少量のお酒は体にもいいんですよ」って患者さんに伝えてる!
 
これはきちんとソースを確認せねば^^;
 
そう思って、根拠となっているオックスフォードの研究について、抄録を訳したうえで
その感想を述べたいと思います。
 

 
【題】
脳の有害転帰と認知機能低下のリスク因子としての中等度の飲酒:縦断的コホート研究
 
【目的】
適度なアルコール摂取が脳の構造や機能に対して良い影響があるか、悪い影響があるかを調査する。
 
【対象と方法】
30年間(1985年~2015年)にわたり、毎週のアルコール摂取量と認知能力を繰り返し測定した観察的コホート研究。試験のエンドポイント(2012-15年)に頭部MRIを実施した。
 
対象者:イギリスの健康な550人の男女を対象とした。ベースライン時の平均年齢は43.0歳、CAGEスクリーニング質問票で「アルコール依存症」ではなく、安全にMRIが施行できると確認された。23人は、下記の理由で除外された(MRI画像が不鮮明だったり構造的異常がある、不正確な飲酒や健康状況があるなど)。
主なアウトカム指標:脳の構造的指標には海馬の萎縮、灰白質の密度、白質微細構造を用いた。機能的指標には、研究期間中の認知機能の低下とMRI時の認知機能を用いた。
 
【結果】
30年間のアルコール摂取量が多いほど、用量依存的に海馬萎縮と関連していた。週30ドリンク以上(1ドリンク=エタノール換算 8g)の飲酒者は禁酒者と比較して最もリスクが高かった(オッズ比5.8、95%信頼区間1.8~18.6;P≦0.001)。また、中程度(14~21ドリンク/週)の飲酒者でも右側海馬萎縮のオッズは3倍(3.4、1.4~8.1;P=0.007)であった。一方、軽度の飲酒(1~7ドリンク/週)の禁酒に対する保護効果は認められなかった。また、アルコール使用量が多いほど、脳梁の微細構造の違いや言語的流暢性(「か」で始まる単語を1分間に何個言えるか、等)の低下の早さと関連していた。全体を通した認知能力や、意味的流暢性(野菜を1分間に何個言えるか、等)、単語想起には関連が認められなかった。
 
【結論】
アルコール摂取は、たとえ中程度のレベルであっても、海馬萎縮を含む脳の有害な転帰と関連している。これらの結果は、英国での最近のアルコール摂取量の減少を支持し、米国で推奨されている現在の制限値に疑問を呈している。
(抄録ここまで)
原文:Anya Topiwala, et al: BMJ 2017;357:j2353  https://www.bmj.com/content/357/bmj.j2353
 

【解説】

この研究を通して著者は、「男性では週24.5ドリンク(=エタノール換算 196g/週=1日28g)までは安全」と示唆するアメリカのガイドラインに疑問を投げかけています。
 
ちなみに「1ドリンク」という単位は、国によって基準が異なります。
日本では従来から「日本酒1合」を1単位としているため、エタノール換算で1ドリンク=20gですが、下の表のように世界では国ごとに基準が異なります。この論文は英国なので、1ドリンク=8gとしています
 
下記の表は、1ドリンク=10gとした場合の量です。
日本の許容量はガイドラインで1日20gまでとされています。
そのためビールなら中ビン1杯まで、日本酒なら1合までです。

e-ヘルスネット:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-02-001.html

 
日本でもいくつかのコホート研究で、「虚血性心疾患」「脳梗塞」「2型糖尿病」「死亡率」については、Jカーブパターンが成り立つとされています。
つまり、酒を全く飲まない人よりも、適度に飲んでいる方が、これらのイベントを抑制できるということです。総死亡率では、男女ともに1日23g未満で最もリスクが低くなっています
アルコール消費量と死亡率の関係

【感想】

単刀直入に言うと、この論文には期待はずれでした。
 
患者への説明のため「酒は少量なら体に良い」vs「酒は少量でも体に悪い」で論じたかったのですが、思ったような内容ではなく
 
「酒を飲むほど海馬や脳梁に悪い影響があるよ」
 
という至極当たり前なことを述べています。
 
また、少量の飲酒 vs 非飲酒で海馬の萎縮の具合に有意差がなかったことから、少量の飲酒ではメリットがないと匂わせていますが、それは逆もしかりです。
 
(少量の飲酒で起こる弊害はその程度・・・?)と。
 
確かに、日本のコホート研究では高血圧や脂質異常症は容量依存的にリスクが高まりますが、死亡率や心疾患・脳血管障害のリスク軽減とどちらを取るかと言われたら・・・?
 
結局、外来での患者さんへの説明を大幅に変えるには至りませんでした。
 

まとめ

冒頭で「酒は百薬の長」と言いましたが、徒然草ではこう記されています
 
「百薬のちょうとはいへど、万の病は酒よりこそ起れ」
 
食品でも薬でも、表と裏の両面を常に見ないといけません。