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血液ガス分析を3秒で読む方法~”酸素化”編~

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※この記事は、「医療従事者向け」に「血液ガスの簡単な読み方を提案する」記事です

 

 救急外来をやっていたら、何かと見る機会の多い血液ガス分析。

 

「息が苦しい」「お腹が痛い」「意識レベル低下」…重症度が高そうな患者が来ると、CBCや生化学と一緒に血液ガスを頻繁に測ります。

また、人工呼吸器管理中は比較的密な管理が必要になるので、ICUなどでは動脈ライン(Aライン)を確保して1日数回測定することも。

 

 そんな血液ガス分析ですが、慣れないうちは

「pHが7.35でPaO2が60、PaCO2が55、ええと…BEは-2.0、うーん…」

と、出てくる検査項目をザッと目は通すものの、結局PaO2、PaCO2くらいしか評価できていないことがあります。

 

そんな医師・看護師がこの記事を見ることで、以下のことができるようになることを目指します

・血液ガスを見て、患者の状態を3秒で判断する

 

 血液ガスで見るべきはたった2つ。

1つ目は「酸素化」、2つ目は「換気」です。

そして、見るべき項目は

PaO2, pH, PaCO2, HCO3の4つのみです。

 

これから2つの記事に分けて、酸素化、換気の評価の仕方について解説します。

今回の記事では「酸素化」についてお話しします。

 

「酸素化」の評価の仕方

酸素化とは、呼吸によって、どれだけ酸素が血中に取り込まれているか、というもの。

「指にモニターつけて、SpO2を見ればいいじゃない」という意見、ごもっともです。

酸素なしで状態安定している患者には、酸素化に限って言えば血液ガスが必要とされない状況は多々あります。

 

しかし、高濃度酸素を投与していたり、人工呼吸器管理中となると、PaO2の重要度はSpO2と全く異なってきます。

その理由が、下の酸素解離曲線と、「P/F比」の評価です。

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これは、横のPaO2が60 mmHgの時は、縦のSpO2は90%という対応グラフです。このグラフを見たことがない人がまず覚えておくべきは

PaO2ーSpO2
60 ー 90
50 ー 85
40 ー 75

の3つで、SpO2が9,8,7と下がってきたら、PaO2も6,5,4と下がっていく、と暗記しましょう。

 

その上で、それだけでは「結局、SpO2だけで酸素化のヤバさは評価できるじゃないか」というツッコミが入ります。

しかし、問題はSpO2が98%を超えるときにあります。

上のグラフは正確には誤りで、SpO2 が98~100%のときには、PaO2は100mmHgではなく、100~400mmHgくらいの範囲で変動します。PaO2の変動は、酸素化の評価にとても重要な要素です。

例えば、リザーバーマスク10Lの患者で、最初と2時間後に測った数値が以下のようになりました

SpO2 100%、PaO2 240 mmHg
→(2時間後) SpO2 100%、PaO2 120 mmHg

この場合、PaO2はいずれも100を超えているわけですが、はたしてこの経過は安心できるでしょうか?

「PaO2は100を超えているし、もちろんSPO2も良好だから、問題ない」

そう考えてしまうと、この後に起こりうる急変に対して後手に回ってしまうので要注意です。

 

この変化がどれだけヤバいのかを正しく評価するために、「P/F比」を用います。

P/F比とは、呼吸不全の程度を表す数値で、PaO2÷FiO2の頭文字を取っています。
正常ではP/F比≧400で、呼吸不全はP/F比<200が、一つの評価です

ちなみに急性呼吸促迫症候群(ARDS)においては
ARDSのP/F比≦200急性肺障害(ALI)のP/F比≦300
と分類されます。

FiO2は、通常の空気では0.2、リザーバー10Lでは0.8など、酸素の吸入量やデバイス(鼻カニューレ、マスク等)によって数値が決まっていますので、いくつか暗記しておくと楽です。

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低流量ではP/F比を評価する頻度は少ないので、マスク6Lなら0.5リザーバー8Lなら0.8くらいは、覚えておくとよいかも。

健常人はroom air(FiO2 0.2)でPaO2 100 mmHgとしたら
P/F比=100/0.2=500になります

 

話を戻して、「リザーバー10Lの人で、PaO2が240から120へ下がるのはどの程度悪いことか?」という話でした。

リザーバー10LのFiO2=0.8とすると

P/F比 240÷0.8=300
→120÷0.8=150

と、P/F比は300から150へ変化しております。2時間の経過でARDSを基準を満たすような呼吸不全が進行しているので、挿管・人工呼吸を考慮しないといけない段階になっている、と考えられます。

重要なのは、ここまで酸素化が悪化しているにもかかわらず、SpO2は100%を維持している、ということです。SpO2が追えない変化を、P/F比つまりPaO2が追えるというアドバンテージを理解しましょう。

 

血液ガスを採る習慣のない医師や病院の体制だと、とりあえず高流量の酸素で見た目上の数値を良くして安心しがちですが、SpO2でしか評価しないと、急変の予兆を感じることができません。

 

そのため、酸素投与や人工呼吸器管理においては、SpO2を100%に維持しつづけることは推奨されません。できれば97%程度に留めておくことで、酸素化の悪化に早く気が付きやすい環境を作りましょう。

 

まとめ

酸素化を3秒で読む方法
①酸素吸入量からFiO2は事前に確認しておく
②PaO2をFiO2で割って、400以上になっているか、前回値から下がっていないか確認する

この2ステップで完了です。

計算したら3秒以上かかる?まあ、手順の話ですから・・・頑張りましょう!

 

次記事は「換気」の評価をしていきます。